再会

NSCAジャパン(日本ストレングス&コンディショニング協会)が開催するCPT受験前講座というイベントの講師で早稲田大学西早稲田キャンパスへ行って来た.CPTとはNSCAが発行するパーソナルトレーナーの資格で,今回は間も無く開催されるCPTのライセンス試験の前の対策講座の講師として依頼されたものである.西早稲田キャンパス(いわゆる本部キャンパス)で講義をするのは,私がまだ早大に勤めていた2年前にオープンキャンパスで体験授業の講師をしたとき以来である.従って,懐かしさでちょっぴり楽しみだった.
講義開始前に講師控え室で休んでいると,受講生らしき男性が尋ねてきて「柳谷さん!」と声をかけてきてくれた.彼は「埼玉大学で一年後輩の○崎です.」と名乗ってくれたが,正直,一瞬(というか暫らく)は彼が誰であるか分からなかったが,段々と思い出してきた.あまり思い出せなかったのと,講義直前であまり時間が無かったのとで,彼とは殆ど話をすることができなかったが,受講生としてここに居るからにはパーソナルトレーナーを目指しているらしい.しかも,昨年も受験したけれどだめだったため,今年はそれなりに気合を入れての参加ということだ.
講義をしながら気づいたことだが,受講生には年配の人も多く含まれていた.大きな階段状の教室だったのだが,前半分に私と同世代以上,後ろ半分に私より若手が多く含まれていた.後に事務局の方に聞いたのだが,後ろのに座っていた若い人の多くが専門学校生であり,自分の意思よいうよりもむしろ専門学校のカリキュラムの一環として受講しているとのことだった.どうりで後ろの方に座っている人たちに眠っている人が多かったわけだ.社会に出てある程度年月を経て学ぶことの必要性や資格の必要性を感じて受講している人と,単に義務として受講している人の差は明白であり,それが受講態度にも現れるわけだ.義務として参加している人は,講義が始まるとすぐに眠り,必要性を感じて参加している人は眠いのを我慢して聞いている様子が,講義をしている私にも見て取れた.
私は以前,スポーツ(科学)系の専門学校で非常勤講師をしていた.お世辞にも高いとは言えない専門学校での講師料にも関わらず専門学校の教壇に立っていたのは,単にお金のためではなく,将来はインストラクターやトレーナーとして運動者である客とのインターフェイスとなるであろう専門学校生だからこそ正しい教育を受け,学ぶ習慣をつける必要があるのだろうという思いからであった.しかしながら,数年間専門学校の教壇に立った結果,スポーツ系専門学校に進学する学生の多くが,スポーツをするのは好きだがスポーツ科学を学ぶことには興味がなかったり(つまり学ぶ気がなかったり),他に進学先が無く,かといって就職するのも嫌で来ていたりして,卒業後にもスポーツに関わる仕事に就こうという意志をもって学んでいる学生は極僅かであるという現状を目の当たりにした.そして私はその様な学生を相手にして教壇に立つことに無意味さを感じて専門学校の教壇を離れたわけである.
不景気の続く昨今,大手スポーツクラブでも新卒を採用して教育するとコストや無駄が多いことから,キチンと知識と技術を持ち合わせるパーソナルトレーナーを多く採用する傾向にあるそうだ.そういった状況のなかで,無気力ではなくインストラクターやトレーナーという職業に就いた方々が必要性を感じて学びに来ているのだろう.もちろん専門学校生の全てが無気力とは言わないし,私の勤務している大学の学生が全て意欲的に勉強しているはずも無い.ただ教育する側としては,単に教養としてスポーツ科学を学ぶのではなく,学ぶからにはその知識を生かせる職業に就いて欲しいし,入学時に抱いた志を貫いて卒業してもらいたいと言うのが本音であろう.そして,本当に学ぶことに集中することができるのは学生の間だけなのだから,専門学校であろうと大学であろうと学ぶことが本業の学生諸君には是非頑張ってもらいたいと,社会人になってなかなか学ぶ時間をとる事が出来ない今だからこそ言いたいわけである.そして,そうは言っても私自身もまだまだ学びたいと日々思っているわけである.