世間ではワールドカップが開幕し,陸上競技の日本インカレが開催されているというのに,私は朝から大学にて受験生を対象とした入試相談会の相談員としての業務に従事した.この業務,私は割りとよく当たるのだが,こういう所に相談に来る受験生の大半はクラブ目当てであり,入学したらクラブ活動することしか考えていない気がする.それでも良いのだが,でもやはりスポーツすることとスポーツ科学を学ぶことは似ていて異なるのでそのことは認識して貰いたいというのが,座学科目担当教員としての個人的な考えだ.それからやはり,こういう受験生が多いからこそ,このような業務を担当する教員は私のような者でないほうが受験生のためにも,そして大学のためにも良い気がするのだが.
ところで先日,相談会場で再生する大学プロモーション用のビデオを見たのだが,そのビデオはレジャーランドとしての大学の楽しさだけを訴えかけているような気がしてならなかった.コメントする学生の全てが「楽しいです,是非入学してください」と言っていた.大学は楽しむためのアミューズメントスポットではなく,あくまでも学ぶところであるということは学生諸君には忘れないで欲しい.今日はたまたま寮祭が開催されており,中庭は大盛り上がりになっていたが,あんなのは大学生活のごく一部であり,残りの多くは学問を追及して切磋琢磨して成長する時間である.好きな学問を追及してその結果楽しいのであれば問題はないのだが,バカ騒ぎをしたり,ケジメの無い生活をして楽しいのであればそれは来る場所を間違っている.
私の担当する授業は実験実習が主なので,受講生は毎週のように実験課題やレポートが課される.最初のガイダンスでそのことを伝えると受講をやめる学生がいたりするし,途中で「キル」学生も出てきたりする.所詮選択科目であるし,教職にも関係ないので,私の担当科目を受講しよう思い,最後まで続けようとする学生は,おそらく本当に勉強して知識やスキルをアップさせたいと思っている学生だと思う.実験実習の場合には,やる気の無い学生が居たり,受講生が多かったりすると実習が円滑に進まないこともあるので,実は少人数でもやる気のある学生だけが揃った方がよかったりするのだが,学生達は授業時間だけ拘束されて,(講義ではなくて実習で)体験して楽しめる科目を好む傾向があるようだ.それはそれで構わないのだが,初年度158万円もの金を支払っている親としては残念な話だろう.
今日は午前中の入試相談会の後に,生理学研究室において,この研究室のOBで現在は東京大学助教授をしている柳原先生が講師を務めるセミナーが開催された.実は,私は柳原先生との付き合いは10年くらい前からであり,私が順大に来ようと思ったのも先生のことがあったからだ.私は大学院の修士課程の学生だった頃,当時,理化学研究所で勤務していた柳原先生の居た研究室で実験補助員のアルバイトをさせて貰っていた.大学院生の私には先生の言動は新進気鋭に感じられた(勿論今もだが).先生とは研究のことやプライベートのことなどを色々と話することがあったのだが,そんな話をしながら,正直言って,順天堂大学出身でもこんな人がいるんだと思った.だから,2年前に私が順大に来る事になった時には,きっと柳原先生のような学生達と実験することが出来るのだろうと期待してきたわけだ.今の所,その期待を完全に満たすような学生には出会っていないし,学生達との付き合いや受験の相談員をしながら,彼のような例は,この大学では特異的であるということにも最近は気付いたのだが,今日の先生のセミナーに聞き入っていた学生達の姿を見ると,あのような存在は元から居るわけでもないし,突然変異するわけでもなく,長い時間をかけて育ってきたのだと感じたし,また,私達のような教員が育てなくてはならないのだろうと感じた.それから,先生の話に聞き入る学生達,多くが私の授業も受講している学生なのだが,やはり話の面白さや話し方で学生の眼の輝きは変わるものだと思った.学生に求めるだけではなく,私自身も学生に魅力的な研究をして魅力的な話ができるような教員にならなくてはならないのだろうと再認識した.