環境により左右されるもの

ヒトの身体が発達する過程では,環境の因子が大きく影響を及ぼすことは良く知られている.その例としてはスポーツのトレーニングがあげられるわけだが,スポーツのトレーニングの過程では,その負荷強度や頻度により効果に相違が生じることになる.また,負荷強度が至適で無い場合には,十分なトレーニング強度を獲得することが出来ないこともある.
ところで,我が家は最近,駅前で大通り沿いのマンションから戸建へと転居した.マンション生活の場合,隣近所との付き合いは殆どなく,また,周辺に子どもたちが遊ぶ環境もないため,子ども達が外遊びをする場所もないし,近所で子ども達が遊ぶ姿をみたことも無かった.事実,ウチの息子も家の中で遊ぶことが多かったし,たまに公園に出かけるときにもクルマにのって大きな公園に連れて行く必要があった.
一方,転居先の周辺には,以前にクルマで来ていた公園やウチと同じような住宅地が立ち並び,また大通りからも離れているために,家の周辺では毎日のように子ども達が外遊びをする姿を見かける.転居早々,うちの息子もその仲間入りをし,ここ数日,近所の子ども達と駆け回る姿を眼にするようになった.
彼らが近所を駆け回る姿を観察していてあることに気が付いた.あることとは,元々この街で育った子どもは,ウチの息子と同じか年下であっても自由に自転車を乗りこなしたり,ボール蹴りやボール投げも上手であるのに対して,ウチの息子や同じ時期に越してきた子は,年はほぼ同じであるにも関わらず,自転車の運転をはじめとする各種能力に劣るということである.つまり,スポーツトレーニングと同様に,遊びや育ちの環境が運動能力や行動能力に影響をしているということであろう.
小さい頃に外遊びにより養われた身体を操る能力は,後の運動能力に大きな影響を及ぼすはずである.最近,幼少期からスポーツを始めることが後の競技成績に大きく影響することが囁かれている.そのため,小さい頃からスイミングや体操などのスクールに子どもを通わせるというのは,今では珍しいことでも無くなっている.事実,体操金メダリストの鹿島君や富田君は,3歳の頃から体操教室に通っていたというのは,最近では周知のことである.しかしながら,本当に大事な能力というのは半分素人が教えるようなスクールに比べれば,自然の中での外遊びの方がより養われるのではなかろうか.
当の本人は,当然こんなことは考えずに外で遊びたがるようになった.毎日,家の周辺で遊ぶのが楽しくて仕方ないようである.家に居て,近所の子たちが遊んでいる声が聞こえると,外にでたがるようになってしまった.しかしながら息子が元気に走り回ったり,子ども社会の中でコミュニケーションする姿を見ると,引っ越して本当に良かったと実感する毎日である.
ところで,学校教育に関わっていると,年齢や学年により上下関係が発生して言葉遣いや立場の意識や主張が強調されるものである.一方,子どもを持つ親が近所で出会うと,親同士の年齢を言い合うこともなく,親同士も友達のように会話するのが普通だ.子どもが同世代ということであれば,親の年齢や職業は無関係になるのだろう.時にはウチの学生達と同じくらいの世代の親に出会うこともあるが,それでも全く気にせず対等にコミュニケーションすることができる.そう考えると,1年の学年差や年齢差で上下関係が煩く主張される学校社会というのは,本当におかしな社会である.こんなことも,今の環境に来なければあまり意識しなかったことだろう.つまり,こどものみならず,大人であっても生活する環境がことなると,意識するところが変わるということだろうか.