Wallstreet

私が大学院生時代の1998年のこと,アップル社は新型のCPUを発表し,そのCPUに第三世代という意味のG3という名前を付けた.G3のCPUを搭載したマッキントッシュの性能はそれ以前のもの比較すると格段に優れたものだった.そしてそのG3を搭載したノート型であるPowerBookG3は性能のみならず,黒い筐体のデザインもまた中々なものであった.開発コードはWallstreetでったため,通な人からはその名で呼ばれるものであった.当時大学院生だった私は,それが欲しくてたまらず,分割払いをして確か約25万円でWallstreetを入手したのであった.Wallstreetの性能や使い勝手は,それまで使用していたPowerBook520C(世代でいうとG1ということになる)に比べると格段によかったし,お金が無い時代に分割払いで購入したものなので,私的にはかなりの思い入れがあるものとなったものである.そして,その後も,ハードディスクやメモリ,そしてCPUまでも交換して,さらにUSBポートやIEEE1394ポートまでもPCカードで増設して,最近まで使用し続けた.後にこのタイプは液晶モニタを固定しているヒンジの耐久性が悪いことが知られるようになり,私のも同様にヒンジが壊れ,その後は液晶モニタの後部にブックエンドを置いて利用していた.Wallstreetは実験用に実験室で利用していた為に,学生達は何故こんな古いものを使っているのか不思議に思っているようである.理由は2つあり,学生時代から実験用に利用していたからということと,実験機材によってはこの型のパワーブックしか利用できないものがあるからである.
先日,そんな私のWallstreetがとうとう起動しなくなった.電源を入れてもハードディスクを認識しなくなったのだ.OSを再インストールしてもすぐに同様の結果となってしまうようになった.諦めきれずに色々と手を打ったがダメだった.色々と悩んだ結果,再びWallstreetを購入することにした.とはいえ,今となっては中古品であるため,なかなか見つけることは出来なかった.勿論,オークションでは出回っているものの,それなりに美品を入手したかったし,領収書が欲しかったために,ショップを探すことにした.そして漸く,大学から遥か100キロ離れた所沢の中古ショップで,程度の良いそして私が当時購入したものよりもハイスペックのモノを見つけることができた.価格(35000円)はオークションの相場に比べると少々高めだが,かなり綺麗で箱と取説,そしてオプションなどもついていたし,あたりまえだが新品当時の約十分の一で購入できるということで妥協することにした.
最近のマックはG5時代である.性能もデザインもそしてOSも一新し,もちろん良くなってきたわけである.それでも,あえてG3のWallstreetを購入するのって,未だにたまに街で見かける旧型のビートルみたいなものかもしれない.時代を超えてもいい物は良いものである.もちろん,快適性は最新式とは比較にもならないし,G5を使うと快適だと実感するのだが......... 
後日,これを実験室で使っていると,大学院生の小倉君から,「これってWallstreetですね?」と尋ねられた.私はニヤっとしながら「知ってるねぇ,マックオタク?」と心の中で呟いたのであった.