学生時代に留学することに対する私見

私の同僚の英語の先生が,大学教員になることを希望している大学院生に対して「出来るだけ早い時期に留学した方がいいよ.」という言葉をかけていた.おそらく,この言葉の背後には,英語を勉強するならば物事の吸収力の良い若いうちに行った方が良いということなのだと思う.そしてこの先生も外国の大学院を修了しているので,おそらく自身の経験からもそう言ったに違いないと思う.このブログは大学院生達も眼を通してくれているようなので,これについて,私は私の立場で意見を書きたい.ちなみに,この先生もたまに読んでくれているらしいので,先生への反論ではなくて,あくまでも私の立場からの考えであることはお断りしておきます.
英語を勉強するのが目的ではなくて,あくまでもスポーツ科学を学ぶことが目的の場合には,私は外国に留学するのはあまりお勧めはしない.なぜなら,私の勤務する大学では,多くの学生が日本語でも知識や理論を十分に学ぶことが出来ていないのが現状である.そんな状況で外国語で講義を受けたり研究をしても時間の無駄である.さらに,多くの学生が日本語で論文を書くことが困難な状況であるのに,こういう学生が英語で論文を書くことなどはっきりいって不可能である.
スポーツ科学でも特に自然科学系の場合には,論文を書くには実験や調査が必要である.研究対象となるスポーツ現場(研究フィールド)は誰でもよいわけではなく,それなりにちゃんとした集団や競技能力のある集団が必要となる.語学力が不十分な留学生に対して,これらの集団のヘッドが快く協力してくれるはずがない.外国の場合にはプロのコーチがスポーツの指導しており,日本のように教員が指導をしているわけではないので,研究への協力など易々としてくれるとは思えない.ここらへんは教員が指導している日本でもなかなか難しいものなのに,どこの馬の骨かも分からない,しかも語学が苦手な日本人に協力してくれるか疑問である.大体,海外に行けば皆が普通に英語でしゃべれるわけなのだから.
私のような分野では,研究するにもそれなりの研究費が必要になってくる.研究費は海外のラボでボスが出すことになるのだが,十分にコミニュケーションが取れず,ものになるか分からないような留学生に対して,それなりにキーとなる研究課題を任せてくれるとは考えにくいし.
私は留学経験はないが,留学経験のある先生達の話を聞くと以下のようなことを聞く.たとえ日本の大学の教員として行ったとしても,海外のラボでは博士を取得していない限りは学生扱いをされて,テクニカルスタッフやお手伝いさんとしての仕事しか与えられないそうである.ちなみに,この先生が博士を取得してから再度同じラボに留学したときには,自分中心のプロジェクトを組んでもらえ,自分の下に学生やテクニカルスタッフをつけてもらえたそうである.このように,海外では日本以上に,研究者としての資格として博士号が必要となってくるようである.そういう意味でも,本当に海外で研究したいというのであれば,やはり日本で,得意な日本語で博士号をとってから行くべきじゃないかなと思う.
ということで,個人的には大学教員になることを目指す大学院生には,日本でしっかり能力とポジションを得てから行くべきだと思うな.もちろん,私の周りには海外の大学院で博士号を取った人や,海外の大学で終身雇用の権利を勝ち取った先生もいるけれど,彼らは本当に,これを読んでいる人たちが想像する以上に優秀だったし努力家だった,しかも語学も堪能だった.現時点で私の周囲に居る大学院生に,彼らと同じようなレベルの人はいないと思う.